『思考の整理学』を読んだ
May 08, 2020, 00:06 #Reading
どんな本?
抽象のはしごを登る方法と、その心構えについてのエッセイ集
感想
FPS プレイヤーによく知られている教訓に
引くこと覚えろカス
というものがあります。
FPS に限らず、シューティングゲームをそれなりにやったことのある方なら、おそらくスッと納得できる言葉ではないかと思います。そうでない方にもわかるように、すこし噛み砕いてみますと、
状況判断して、勝てる見込みがないなら撤退しろ
ということです。
「カス」というのは少々荒い言葉ですが、それだけ大切だということです。ただ、簡単ではありません。状況判断の材料は無数にあるからです。
例をあげてみると
- 残りの体力
- 持っているアイテム
- キャラクターの能力
- 位置
- 敵に攻撃しやすいか?
- 敵から攻撃されやすいか?
- 味方と挟み撃ちしやすいか?
- 敵・味方・自分のプレイヤースキル
- …
と枚挙に暇がありません。
これらを瞬時に把握して押すか引くかを判断する能力が、その人の実力だといっても過言ではないでしょう。
プレイヤーは負けた経験を通して、なぜ自分のプレイがダメだったのかを反省し、引くことを覚えていきます。上級者は数え切れないほど負けた経験を積んでいるので、より正確な判断が出来ます。
上級者のなかでも引くことに対する解釈は細かく違ってくるはずです。経験に基づいてしか解釈は出来ません。積んできた経験はひとりひとり違いますが、それがプレイの差としてあらわれます。
このように、経験をもとに独自の理論を構築・修正するということが、抽象のはしごを登るということなのではないかと思いました。
また、この本の中には何度も、抽象のはしごを登ることができないと自分なりの考えを生み出せない、という警告が出てきます。
FPS 上達のコツは死んで覚えること
と言われたりしますが、こちらもなかなか正鵠を得ているのではないでしょうか。もちろん、負けたときの状況を事細かに覚えておくことは出来ませんから、いかに抽象のはしごを登るかが大切になってきます。
そういえば、格闘ゲームの世界に『思考の整理学』を実践しているプロゲーマーがいました。ウメハラこと梅原大悟さんです。格闘ゲームをやったことのない方でも名前は聞いたことがあるのではないでしょうか。
彼はゲームをするとき
- 思いついたアイディアをメモにとり、あとで見返す
- 煮詰まったなと感じたら即座にプレイするのをやめて散歩
というのを習慣にしているようです。
本をあまり読まないようなので、おそらく自分で試行錯誤するうちに考えついたのだと思いますが、この本で説明されていることとほぼ同じ内容の発言をしています。
アイデアも、検証結果もメモしますね。検証してそのアイディアが“使える”とわかったら、“戦力”として別の場所にまとめるようにしています。
ノウハウは持ってることよりも、生む力のほうが大事。
「このまま引っ張ってもらえばずっと成長できるんじゃないかな」と思いがちなんですが、教わっているだけで成長できる時期は、必ずどこかで終わってしまいます。
ほかの人と「迷ってきた量が圧倒的に違う」というのは、武器のひとつですね。
―― 100%真面目にやらないことで、高みを目指せる。プロゲーマー梅原大吾の「成長論」|新R25 より
『思考の整理学』は抽象のはしごを登る人が見る景色なのかもしれません。
読書メモ
1
グライダー人間には文化が作れない。
グライダー
創造的な思考能力を持っている人は圧倒的に少ない。
- 社会には学校信仰ともいうべきものがある
- なにかを学ぶなら学校に行かなければいけないという観念がある
- 学校はグライダー人間をつくる
- 独力で学べない人をつくる
- 卒論が書けない学生が発生する
- 新しい文化を創造するには飛行機能力が必要
不幸な逆説
創造的な思考は文化や文明の発展に欠かせない。
盗ませる教育は悪くないと思うけど、知識をモデル化しない理由にはならないと思う。また別の話なので。
- 昔は「盗ませる」教育をしていた
- すぐには教えない(出し惜しみする)
- 教えてもらおうという気をなくさせる(受動的から能動的へ)
- 技術や知識を盗むうち、いつのまにか自分で発見する力がつく
- ギリシャ人が文化を築き上げたのは「なぜ」を問う力があったからといわれている
- 与えられた問題を解く力ではなく
- 新たな問題を作る力
朝飯前
- 頭を使うのは朝が良いという話
- 逆に夜はあまり良くない
2
思考は寝かせて、主観を排する。
醱酵
素材を集めて寝かせる。良いテーマならば自然とアイディアが湧いてくる。
- 卒論が書けない学生の話
- ビール作りと論文の書き方
- 麦を集める
- よい酵母を探す
- ヒントになるアイディアを探す
- アイディアは思いがけないところにある
- 分野を絞らずにいろんなところにアンテナを張る
- 寝かせて発酵を待つ
寝させる
- 歴史に残る大発見などは寝起きに生まれているものが多い
- 一晩寝るだけでは短すぎることもある
- 思考の整理には「寝かせる」というプロセスが重要
カクテル
独りよがりな思考に陥らないために、様々な意見を集め、止揚する。
- 自分ひとりの考えだけでは独善的になってしまう
- 得た考えを贔屓したり批判したりする前にまず受け入れる
エディターシップ
知の編集術。
- ものを集めて編纂すると、それぞれにはなかった面白さが生まれることがある
- 良い「知識のカクテル」をつくるには
- 面白いと思ったものを集める
- どれを選んで組み合わせるか考える
- どういう順序に並べるか考える
触媒
新しい考えが全て自分の中から生まれるということはない。自らがすでにあるものを結びつける触媒となることで生まれる。
個性を捨てて無心になると自由な発想が出来る。このとき、捨てたと思っていたけれど滲み出る部分が真の個性。
- インパーソナル・セオリー(没個性説)
- 個性が表現するのは個性自身ではなく、個性を触媒として化合させたもの
- 個性はただの触媒、またはフィルタにすぎない
- あたらしいものを生み出そうと躍起になるのはよくない
- むしろ、いったん忘れて主観や自我を排除したほうがよい
アナロジー
- たとえ話はわかりやすい
- 細かい説明抜きで実際をわかりやすく伝えることが出来る
セレンディピティ
セレンディピティ
3
抽象のはしごの登りかた。
情報の “メタ” 化
- 情報の抽象化
- 抽象化の方法は「醱酵」「カクテル」「アナロジー」など
- 思考の整理は「抽象のはしごを登る」こと
- 哲学化・思考の純化ともいえる
スクラップ
- スクラップの作り方
- 時間が経ったら不要なものから捨てる
カード・ノート
- カード・ノートの作り方
- 本を読んでメモをとるときは、ある程度読んで振り返るときにする
- 読みながらメモをとると、あれもこれも重要に思えて無駄が増える
つんどく法
- テーマと関係する資料を集められるだけ集める
- いっぺんに読む
- メモなどはあまりしない
- 簡単なもの、標準的なものから読む
- 段階的に理解できる
- 重複する部分が出てきて読むスピードが上がる
- 全部読んだらまとめを記録する
- 後になっても忘れられない部分がその人の知的個性
手帖とノート
- 知識やアイディアを安心して忘れられるようにメモをとる
メタ・ノート
- メモを読み返して、面白いものは別のノートに転記する
4
忘れられないものをまとめる。
整理
- 頭のリソースを思考に割くためには、不要なものは忘れたほうが良い
- 忘れるのは難しい
- 睡眠は忘れるための良い方法
忘却のさまざま
- 忘れるための方法
- ヤケ酒
- 場所を変える
- 全く別のことをする、考える
- 運動
時の試練
真の価値を見極めるには時間をかけて、ろ過する。
大切なものは覚えているし、そうでないものは忘れる。
- 古典になるものを見分けるには時間が経つのを待つ必要がある
- 自分の中の知識やアイディアで古典になるものを見分けるには
- 思考の整理とは「いかにうまく忘れるか」
すてる
好奇心を失わないために知識を捨てる。これで思考に活力が生まれ、新たな興味関心の発見へつながる。
捨てる作業にこそ個性が発揮される。
- 収穫逓減の法則
- 知識はつければつけるほど新しく増えづらくなってくる
- 新鮮な好奇心を失う
- いらない知識はすてる
- 集まったメモを分類する
- 時間をかけて検討する
- 興味関心と価値観のふるいにかける
- すてるのは個性による再吟味が必要
- 没個性的に知識を吸収するのに比べてはるかに難しい作業
とにかく書いてみる
アウトプットすることで考えが深まる。
- 考えをまとめるのは難しい
- 文章化は散らばった思考を一本の糸にする作業
- 思考を順番に並べる必要がある
- 文章で同時にふたつの思考を説明することはできない
- 全体を一気に書ききってみる
- 考えていることを話すのも良い
- 思考を整理するにはとにかく表現する
テーマと題名
考える技術・書く技術につながる。
抽象のはしごを登るとピラミッドのてっぺんにたどり着く。
- 表題は思考を究極に整理した形
- 題名の表現をギリギリに純化すると名詞が残る
- 思考を整理して抽象のはしごを登りきったもの
ホメテヤラネバ
- 思考は批判されると萎縮する
- 褒められると活発になる
5
さらなるアイディアの出しかた。
しゃべる
文章の推敲は声に出してする。
- 考えを推敲するとき声に出すと良い
- 喋りながら考えると活発にアイディアが出る
談笑の間
垣根を越えて
三上・三中
忘我・無心がアイディアを生む。
- 欧陽脩の三上(良いアイディアの生まれる場所)
- なにか別のことをしたり、考えているときにアイディアは生まれる
- 欧陽脩の三多(文章上達の秘訣)
- 看多(たくさん読む)
- 做多(たくさん書く)
- 商量多(たくさん推敲する)
- 思考の整理法にあてはめると
- 情報を集める
- とにかく書いてみる
- 書いたら吟味、批判する
- 良いアイディアを生む三中
知恵
ことわざの世界
経験を抽象化して法則を見つける。
- ことわざは色んな人の経験を集めて抽象化したもの
- 自分なりのことわざをつくるとよい
6
忘れてはいけないこと。
第一次的現実
現実に起きていることから着想を得なければ、机上の空論になる。
- 第一次的現実
- 第二次的現実
- 真に創造的な思考は第一次的現実に根ざしたところから生まれる
- 現実を見て思考する
- 得た着想をモデル化する(第二次的現実に引き上げる)
- 言葉は第二次的現実のものだということを忘れてはいけない
- 第一次的現実に根ざしていない観念的な思考は日常では使えない
- 机上の空論になってしまう
既知・未知
未知のことを解釈することが創造的思考。
- 三種類の知的活動
- 既知の再認
- 未知の理解
- 新しい世界への挑戦
- 何度も何度も読んで手がかりをつかむ
- 読書百遍、意自ずから通ず
- 未知の理解と新しい世界への挑戦は、知的訓練と等価
拡散と収斂
収斂的思考が重視されてきたが、拡散的思考が必要とされている。
- 拡散
- 収斂
- バラバラのものを関連付けて整理する能力
- グライダー的
- 拡散的思考は創造的
- 拡散的読書
コンピューター
記憶と再生は人間の価値ではない。
- 知的活動の中心は長い間、記憶と再生にあった
- コンピュータは記憶と再生が出来る
- 記憶と再生はもはや人間の役割ではない
あとがき
「考えるということ」について考えるきっかけの本。
- かつての学校では考えるということを教えてこなかった
- 発想は思考体系に依存する
- 思考体系が凝り固まると発想が凝り固まる
- 自分の思考体系がどうなっているのかは自覚するのが難しい
- 他人の思考体系に触れることは自分の思考体系を知る手がかりになる
文庫本のあとがきにかえて